1. はじめに
腎細胞癌は、加齢とともに増加する癌で、男性では70-75歳、女性では75-80歳が発生のピークで、男性のほうが全年齢にわたって女性よりも発生頻度が約2-3倍高くなっています。年々増加することが予想されており、2005年では年間3833名の方が亡くなられていたのが、2020年には約6000名の方が亡くなられると予想されています。
早期の腎細胞癌では、特に症状はなく、最近では検診や人間ドックの超音波検査で偶然に見つかったり、他の病気で施行したCTやMRIで偶然に見つかる方が増えています。
また、尿潜血や顕微鏡的血尿の精査で発見されることもあります。腎細胞癌が進行してくると、血尿や痛みなどの症状や腫瘤が触知されるようになり、これらの症状は腎細胞がんの3主徴と言われています。
腎細胞癌の危険因子として、肥満、高血圧、喫煙、肉や乳製品の過剰摂取が指摘されています。
治療法としては、がんが局所に留まっている場合は外科的治療(開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット支援手術)が基本です。転移を有する場合は、全身治療として免疫療法(インターフェロン、インターロイキン2)、放射線療法、分子標的薬(ソラフェニブ、スニチニブ、アキシチニブ、パゾパニブ、エベロリムス、テムシロリムス)などがあります。最近では、新しい免疫療法として、抗PD-1抗体のニボルマブや抗CTAL-4抗体のイピリムマブが保険承認されています。
2. 治療
1. 外科的治療
転移のない限局性腎細胞がんが最も良い適応です。
また、腎の周囲や腎静脈に浸潤している場合も可能な限り手術が行われます。
手術には 1)開腹手術と2)腹腔鏡手術とがあり、当院では多くの場合、腹腔鏡手術を行っています。腹腔鏡手術は高度な技術が必要ですが、切開創が小さく、術後の痛みが少ないという利点があります。また最近では、4cm以下の小さい腫瘍に対しては、腫瘍とその周囲の正常腎実質を切除し、腎臓を温存する腎部分切除術を積極的に行っています。さらに2016年4月よりロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術が保険適応となり、これまでの腎部分切除術よりもより複雑な腫瘍に対してもより安全に施行できるようになっています。
2. 免疫療法
一般的に肺など他の臓器やリンパ節に転移している場合に行われます。
従来はインターフェロンα、インターロイキン2と呼ばれるサイトカイン療法が主体で、
サイトカイン療法単独より、原発巣の腎細胞がんを手術で摘出した後に、サイトカイン療法を行ったほうが成績が良好であったことから、多くの場合、腎摘除術も同時に行われていました。有効率は10-20%程度で、特に肺転移のみの場合に有効と言われています。現在はこれらのサイトカイン療法はほとんど施行されていません。最近では、新しい免疫療法として、2016年8月から二次治療以降にニボルマブ(商品名:オプジーボ)、2018年8月より一次治療としてイピリムマブ(商品名:ヤーボイ)+ニボルマブ併用療法が保険承認され、長期に効果が持続する方が認められています。一方で新しい免疫療法に伴う様々な副作用が出る可能性があり、十分注意して治療を受ける必要があります。
3. 放射線療法
一般的に骨などの転移巣に対して疼痛緩和目的で行われます。小さな脳転移の場合には、定位放射線療法と呼ばれる狭い範囲に高い線量を照射すると脳転移のコントロールができる場合があります。
4. 分子標的治療
本邦では、2008年頃から導入され、最近まで転移を有する腎癌薬物療法の中心となってきた薬剤です。腎細胞癌では血管内皮を増殖させる成長因子であるVEGFという蛋白質が強く発現し、腫瘍の増大に関連しているため、このVEGFの受容体を阻害する分子標的薬が開発され、高い腫瘍縮小効果が得られています。このVEGF阻害剤には、ソラフェニブ(商品名:ネクサバール)、スニチニブ(商品名: スーテント)、アキシチニブ(商品名:インライタ)、パゾパニブ(商品名:ヴォトリエント)があります。また腎細胞癌ではmTORという蛋白質も強く発現しているため、mTORを抑えるエべロリムス(商品名:アフィニトール)、テムシロリムス(商品名:トーリセル)も保険適応薬として使用可能です。
*当院では、患者さんの全身状態や転移臓器の状況、病理組織などの様々な情報を考慮して、これらの分子標的薬や新しい免疫療法薬であるニボルマブ(商品名:オプジーボ)やイピリムマブ(商品名:ヤーボイ)+ニボルマブ併用療法を選択しています。