研究内容

徳島大学泌尿器科では、尿路生殖器悪性腫瘍に対して様々な方面からアプローチし、臨床応用可能な治療法の開発を目指し研究を行っています。

主な研究テーマは下記のとおりです。

①  患者腫瘍移植モデル(Patient derived xenograft model:PDXモデル)を用いた希少癌に対する治療法の開発。

希少癌では、その発生頻度の低さゆえに有効な治療法が確立されていない場合が多々あります。当教室では、PDXモデルを用いたスクリーニングから希少癌に対する有効な治療薬の同定を目指しています。

②  癌進展における細胞間相互作用の役割の解明

線維芽細胞、脂肪細胞や血管内皮細胞と癌細胞の細胞間相互作用と癌進展の関連を明らかにし、細胞間相互作用を標的とした治療法の開発に取り組んでいます。

論文:Shintani et. al. Urology. 2017 Mar;101:169.e7-169.e13.

③  癌特異的分子を標的とした治療法の開発

網羅的遺伝子発現解析の結果から癌細胞に特異的に発現する分子を同定し、その機能解析に基づいた治療法の開発を目指しています。

論文:Daizumoto et. al. Cancer Res. 2018 May 1;78(9):2233-2247.
Fukawa et.al Cancer Res. 2012 Nov 15;72(22):5867-77.

④ 癌悪液質における筋萎縮の発症機序の解明と治療法の開発

癌に伴って発症する筋萎縮の発症機序の解明を介して、未だに有効な治療法のない癌悪液質に対する新たな治療法の開発に取り組んでいます。

 論文:Fukawa et. al. et. al. Nat Med. 2016 Jun;22(6):666-71.

⑤ ロボット支援手術・腹腔鏡手術を安全かつ円滑に行うための新規デバイスの開発

当科で開発を行っているデバイスを紹介いたします。ご興味をお持ちの方がいらっしゃいましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。

【連絡先】
所属:徳島大学病院泌尿器科 職名:助教
氏名:佐々木雄太郎
電話番号:088-633-7159
メールアドレス:yutaro_sasaki@tokushima-u.ac.jp

ヴァスガイド
ロボット支援手術・腹腔鏡手術で脈管を安全・円滑に確保するための新規デバイスです。

【発案・開発の経緯】
ロボット支援手術において、動脈・静脈・尿管などの脈管を安全かつ円滑に確保することは、極めて重要な手術工程です。この手術工程では、①脈管周囲の剥離、②血管テープなどを裏に回すことによる脈管の確保を行います。手術支援ロボットは、多関節鉗子や手ぶれ防止機能による自由度の高い繊細な操作が可能であるものの、多関節鉗子の可動域や関節の長さの限界により、限られたスペースでの血管の裏面確保が困難である場合や、触覚がないために操作中に脈管に過度の緊張を加えてしまう場合がしばしばあります(図1、図2、動画1)。特に、初心者にとっては難易度が高くなります。この手術工程で脈管を損傷することは重大な医療事故につながるため、誰もが安全かつ円滑に脈管を確保できる手術方法の確立は、医療安全の確保のため極めて重要です。そこで、ロボット支援手術を含めた腹腔鏡手術における医療安全に関わる重要な課題を克服するために、安全かつ円滑に脈管を確保できる新規デバイスの開発に取り組みました。

 図1:ロボット支援腎部分切除術 (右、経腹膜アプローチ)で右腎動脈を剥離している場面。ロボット鉗子で腎動脈の裏を通そうとするも、ロボット鉗子が隣接する腎静脈に干渉して、難渋している。また、腎動脈・腎静脈に過度な緊張が加わっており危険である。

2:ロボット支援腎部分切除術 (右、経腹膜アプローチ)で右腎動脈を血管テープで確保している場面。左手の鉗子は視野確保のため動かせない。右手の鉗子は可動域の限界・隣接する肝臓に干渉して、難渋している。なんとか血管の裏に通したが、この後も、助手の鉗子とロボット鉗子が干渉し、血管テープを渡すのに難渋した。

【Vas guide(ヴァスガイド)】
弧長 22mm、矢高 6mm、5/12 circleのステンレス製です。ボディは扁平で、ロボット鉗子で把持できます。先端はヘラのような形状で、組織に優しい構造になっています(3D図面)。末端に設けた孔に血管テープなどを通して使用します。脈管を剥離した後に、本デバイスを運針するように脈管の裏へ通すことで、ワンステップで脈管を確保できます(動画2)。ロボット鉗子に対し垂直にデバイスを持つことで、ロボット鉗子の関節が周囲組織を損傷するリスクを低減することができます。本デバイスは、泌尿器科の術式のみならず他診療科の術式でも幅広く利用可能です。さらに、ロボット支援手術だけでなく、従来の腹腔鏡手術でも使用可能です。

2023年6月、PMDAクラスⅠの医療機器として承認を得ました。2023年11月、徳島大学病院での臨床使用を開始しました。2024年7月現在、市販に向けた協議が進められ、デバイス先端の構造改良を加えた新モデルの作製および下大静脈などの大径の脈管を確保できるようなサイズ展開を行っているところです。

アシステントガイドおよびアシステントガイドショート
アシステントガイドは、ロボット支援体腔内回腸導管造設術における尿管ステント留置を安全・円滑に行うためのデバイスです。また、アシステントガイドショートは、女性における尿管ステントの留置を円滑に行うためのデバイスです。

【発案・開発の経緯】
ロボット支援体腔内回腸導管造設術における複雑なステップとして、回腸導管に尿管ステントを通す操作があり、各施設において様々な工夫がなされています。これには、主に2つの手法が知られています。その1つは、console surgeonが回腸導管に逆行性にロボット鉗子を通す手法です。触覚のないロボット鉗子を回腸導管に通すこの手法は、エキスパートならばさほど難しい操作ではないが、ビギナーにとっては危険を伴う操作です。もう1つは、patient side surgeonが回腸導管に逆行性に吸引管を通す手法です。この手法は、ビギナーでも比較的安全に施行可能です。しかし、吸引管は専用デバイスではなく、①吸引管先端が扁平で回腸導管内の輪状ヒダにひっかかりやすい、②吸引管先端には側孔を含む複数の孔があるため、ガイドワイヤーやステントが側孔に通ってしまう、③持ち手がなく操作性が悪いなどの問題点がありました。そこで、patient side surgeonが操作する、誰もが安全・円滑に尿管ステントを留置できるデバイスの開発に取り組みました。

【アシステントガイド】
アシステントガイドという名前は、尿管ステントの留置を安全・円滑に行うためのアシスタントとして重要な役割を果たして欲しいという願いに由来しています。全長390 mm、内径4 mm、外径5 mmのステンレス製のデバイスであり(図1a)、①先端が鈍・盲端で、導管内へやさしくスムーズに挿入できる(図1b)、②出口孔を側面に設けることで口径が大きくなり、patient side surgeonが容易に操作できる、③グリップにはローレット加工を施し、高い操作性をほこる(図1c)、という特長を持ちます。また、デバイスに設けられた10 mm毎の目盛りで、腸管などの長さを体腔内で測定することができます。

図1 アシステントガイド

アシステントガイドを用いた尿管ステントの留置に関する手術動画は右のQRコードから視聴可能です。

また、全長 160 mmのアシステントガイドショートも同時に開発しました(図2a)。
女性の尿管ステント留置において、閉塞部位の抵抗が強い場合、ステントの留置が困難となります(図3a)。このとき、無理に挿入しようとすると、膀胱内でガイドワイヤーやステントがループを形成し、留置がさらに困難となることがあります(図3b)。このような場合にアシステントガイドショートを用いると、先端の独自の形状(図2b)が尿管口にぴったりフィットし、ループ形成を防いで効率的に力が伝達され、留置が容易になります (図2c)。

【参考文献】
Sasaki Y, Takahashi M, Fukuta K, et al. Assistent guide: A novel device for ureteral stent placement in robot-assisted intracorporeal ileal conduit. Int J Med Robot. 2023 Aug;19(4):e2513. doi: 10.1002/rcs.2513.

図2 アシステントガイドショート

図3 尿管狭窄部で抵抗が強く、尿管ステントの挿入が困難な場合

アシステントガイドショートを用いた尿管ステントの留置に関する動画は右のQRコードから視聴可能です。

【本製品の発案から販売までの過程】
2021年1月、PMDAクラスⅠの医療機器として承認を得ました。2021年3月、臨床での使用を開始しました。2021年10月、販売を開始しました。

【参考文献】
Sasaki Y, Takahashi M, Daizumoto K, et al. Assistent guide short: A new device for facilitating ureteric stenting in women. Int J Urol. 2023 Nov;30(11):1051-1052. doi: 10.1111/iju.15252.