はじめに
・小線源療法とは、限局性の前立腺がんに対する放射線治療です。
・小さな放射性物質(下図)を前立腺に永久留置します。
・身体への負担が少なく、治療効果は前立腺全摘手術と同等です。
・日本では2003年3月に認可され、同年7月から治療が可能になりました。
・徳島大学病院では、2004年7月から小線源治療を開始しました。
・2020年1月現在、約900例の治療実績があります。
<放射線を出す小さなカプセル状の腺源>
・この線源は永久に前立腺に残ります。しかし、放射線量は次第に減少し、1年後には放射線はほとんど出なくなります。
1. 小線源療法の特徴
1)安定した照射
・前立腺に線源を留置するため、骨盤底筋の影響を受けず照射されます。
2)放射線障害が少ない
・前立腺周囲(膀胱や直腸)への照射量は少なく抑えられます。
3)尿失禁が少ない
・尿失禁はほとんどありません。
4)性機能の維持
・ホルモン治療を併用しない場合、性機能が維持される割合は70%程です。
・性機能が維持された場合でも、次第に精液量は少なくなります。
5)入院期間が短い
・最短で3泊4日の入院です。
2.小線源療法の欠点
1)治療効果の限界
・高リスク群(PSA 20ng/mL以上、グリソンスコア8以上など)は、小線源治療だけでは効果が不良になります。そのため、ホルモン治療や放射線外照射の併用を検討します。
・精嚢浸潤やリンパ節転移があると、治療効果が不十分となります。
2)放射線障害
・直腸:出血し、潰瘍ができることがあります。
・膀胱:出血や排尿時に痛いことがあります。
・尿道:稀に尿道が細くなり、尿が出にくくなります。
3)身体への負担
・腰から半身麻酔を行う、会陰部(陰嚢と肛門の間)から針を刺す、などの負担があります。
3.小線源療法の適応
1)適応
・前立腺にだけ癌がある
・前立腺周囲(被膜)に癌があれば、外照射の併用を検討します
2) 適応外
・精嚢に浸潤している
・前立腺以外(骨やリンパ節)に転移している
・手術や放射線治療後の再発
3)治療ができない場合
・ 過去に前立腺の手術をしている
・前立腺が大きい
・前立腺が小さい
・排尿状態が悪い
・下肢の開脚や挙上ができない
・骨盤に放射線治療をしたことがある
・前立腺に結石が多い
・前立腺に感染がある
・合併症で治療の危険性が高い
・出血しやすい薬を飲んでいるが、休薬できない
・その他、当院において治療の適応でないと判断された場合
4.治療までの流れ
1)初診から治療の決定まで
・紹介状を作成して頂き、受診予約してください。
・小線源治療の可否、ホルモン治療や外照射の併用を検討します。
2)治療前のプランニング(照射計画)
・入院の4~5週前に、外来でプランニングを行います。
①治療時と同じ体勢をとります
②肛門から細い棒をいれます(超音波検査)
③前立腺の大きさを測定し、使用する線源数を決めます
3)入院
・最短で3泊4日(入院:水曜日の午前10時、 治療:木曜日の午後2時)
5.治療の実際
1)治療前
・前日に陰部の除毛、下剤を飲みます
・当日は絶食(水分は可)、浣腸します
2)治療
① 腰から半身麻酔
② 尿道カテーテルを挿入
③ 肛門からエコーを挿入
④ 会陰部(陰嚢と肛門の間)から針を刺します
⑤ 線源を計50~100個留置
・治療時間は約1.5~2時間です
・治療終了後から水分摂取
3)治療の翌日
・食事開始、尿道カテーテルを抜去
・CTを撮影
4)退院後
・退院1ヵ月後に、泌尿器科と放射線科の外来を受診していただきます。
6.治療の合併症
・尿がでにくい:頻繁に認めます。前立腺肥大症の薬を飲みます
・尿漏れ:約0.2%です
・尿閉(尿がでない):約1%です。治療前の排尿状態が悪い場合は、注意が必要です
・直腸出血、潰瘍:術後6-18ヶ月で出現することが多く、稀に人工肛門が必要になります。
・性機能障害:ホルモン治療がなければ、約70%保たれます。
・麻酔による影響(呼吸不全、脳出血などの重篤な疾患)
・抗凝固薬中止による血栓形成(心筋梗塞や脳梗塞、下肢静脈血栓、肺塞栓など)
・その他:血尿、血精液症、頻尿、尿意切迫、尿道狭窄、尿路感染、会陰部痛など
・線源が前立腺外に移動することがありますが、特に問題ありません
7.術後の注意事項
1)留置した線源は放射線を出しますが、周囲の方に与える放射線量は、人が自然界より受けている放射線量よりも低いです。しかし、小さいお子様を長時間ひざに抱いたり、妊婦と長時間接触したりすることは避けて下さい。同室での就寝や団欒(だんらん)は問題ありません。
・術後60日で放射能は半減し、1年たてば周囲への影響を気にする必要はなくなります。
2)稀に尿に線源が排出されることがあります。1個の線源から出る放射線は微量で問題ありません。線源を拾えるようならビンなどに回収し、お子様の手の届かないところに置いたうえで、あわてずに担当医にご連絡下さい。
3)性交は術後4週間以降で可能です。ただし、精液中に線源がでてくる可能性があるため、術後1年間はコンドームを使用してください。
4)治療後1年間は「治療カード」を携帯して下さい。
・治療後1年以内に手術を行う場合、手術担当医師から当院担当医に連絡するようお願いして下さい。
5)治療後1年以内に死亡された場合には、前立腺を摘出する必要があります。家族の方は担当医に必ずご連絡下さい。
8.費用
治療費は線源代を含めすべて保険の適応になりますが、個室料金は自費になります(治療当日は必ず個室を使用します)